漬物は日本人の整腸剤(すごい和食/小泉武夫)

suiso

2012年09月10日 20:43

 漬物は、塩分の作用によって野菜の細胞から水分が抜けて脱水され、その浸透作用によって風味豊かに漬け上がる。水分が抜けた野菜の細胞は、生理作用が止まって保存がきく状態になり、抜けた水の代わりに漬け床の味や香り、栄養成分が野菜に入っていくのであるから美味しくなるのである。また、食べたい時にいつでも食べられる便利さは、質素な食事にはぴったりの食べ物である。さらに漬物には整腸作用があるのが昔から知られている。野菜には繊維質が豊富に含まれているが、日本人は生野菜を食べる習慣がなかった。そのため、野菜を大量に食べようと思っても、生のままではかさばって食べるのに苦労する。しかし、漬物にすれば、野菜がギュッと凝縮されるのでカサが減り、野菜をたくさん摂ることができるのである。もちろん、美味しい味も漬け床からついてくるので、生で食べるよりもはるかに美味しい。同じ量でも、生野菜ではなく、漬物にすると、約四倍の繊維質を摂取できるという研究報告もある。漬物を通して体の中に入った繊維質は、水を吸収して膨らみ、腸管を通過する際に腸の中を掃除してお通じをよくしてくれる効能がある。また、しっかり発酵している漬物は、乳酸菌という素晴らしい善玉菌を腸内に届けることができる。その乳酸菌は、腐敗菌や異常発酵菌などの悪玉菌を攻撃、排除してくれる。これこそ、ヨーグルトや発酵乳飲料を摂った場合と同じなのだから、漬物はまさに、日本人の整腸剤でもあるのだ。
 さらに付け加えておくと、野菜に含まれる豊富なビタミン群は、加熱することで破壊されてしまうが、漬物は加熱する必要はない。だからビタミンを失うことがないだけでなく、発酵菌が漬物に多種多様なビタミンを蓄積するので、漬物からビタミンが供給されるのである。このように素晴らしい食品である漬物は、和食においては重要な脇役なのであるから、この伝統を、日本人は大切に守っていく必要があるのだ。

■ 繊維食で便秘知らず
 漬物の繊維質の話が出たところで、もうひとつ、その効果をあげておきたい。
 繊維質は胆汁酸の分泌を促進し、脂肪の分解やコレステロールの過剰を抑えるために効果があるといわれている。たとえばゴボウは、難消化性多糖類の繊維質がほとんどなので、食べても消化されず、胃腸を通過するだけなので栄養源にはならない。そのためか、お隣の中国では漢方薬の原料に少し使われる程度で、世界ではほとんど食用としては利用されていない。
 ところが、栄養源とはならないものの、ゴボウの繊維質は白米や肉に比べ、20~30倍もの水を吸収して膨潤するので、お通じにはとてもよい。それを知っていた日本人は、ゴボウを昔からよく食してきた。同じように、栄養的には無駄であっても、実は価値のあるもの、たとえばゼンマイ、ワラビ、ツクシ、筍(たけのこ)、レンコン、ヘチマ、モヤシ、蕗(ふき)、そしてコンニャクなど、繊維食をよく食べてきた。

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